乳房に張りめぐらされている乳腺にできる悪性の腫瘍のことを、乳がんといいます。乳がんは小さいうちに見つけると治る可能性が高い病気です。早期に見つかった場合、90%以上は治りますが、進行すると脇の下のリンパ節や血流によって肺や骨など全身に転移しやすいので、早期発見がとても重要です。
乳がんは日本人の女性が最もかかりやすいがんであり、一生のうち11人にひとりは乳がんと診断されています。また、女性の乳がんの年間死亡率の100分の1以下と数としてはまれですが、乳がんは男性にも発生します。
乳がんの原因と症状
乳がんを引き起こす要因について、まだはっきりしたことは分かっていませんが、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌ががんの発生に関係していると考えられています。また食生活の欧米化も影響しているといわれています。
症状は乳房にできる硬いしこりが代表的なものですが、乳頭部分のただれや湿疹、乳頭から血液などが混じった異常分泌が見られることも。症状が進むとがん周辺の組織がひきつれて、乳房や乳頭が変形することもあります。
〈CHECK IT〉
乳がんの主なリスク要因
- 初潮が早い
- 閉経が遅い
- 出産をしていない
- 初産年齢が30歳以上の出産
- 高タンパク、高脂肪、高塩分の食生活
- 閉経後の肥満
- 飲酒習慣
早期発見のためにできること
乳がんは、早期発見できれば比較的治りやすいがんと言われています。定期的なセルフチェックと乳がん健診の受診が早期発見につながります。
〈セルフチェック〉
乳がんは身体の表面に近いところに発生しやすいため、自分で触れたり観察することで違和感に気づきやすくなります。入浴のタイミングなどの定期的なチェックを習慣にしましょう。乳房の左右差や変形がないか、しこりやひきつれ、ただれ、えくぼのようなへこみがないか、乳頭をかるくつまんだとき血のような分泌液が出ないかを調べます。
〈乳がん検診〉
乳がん検診を受けることで、かなりの確率で早期発見・早期治療が可能になるため、年に1度の乳がん検診を受けましょう。乳がん検診の検査方法は、視・触診とマンモグラフィの併用が重視されています。
視・触診は医師が目で見て乳房の形状や皮膚、乳頭の色などに異常がないか、手で触れてしこりがないかなどを調べます。マンモグラフィは乳房を2枚の板で挟み、X線で乳房の内部の状況を映し出します。視・触診では分からない早期のがんを発見することができます。
マンモグラフィー検診の結果、悪性の可能性がある場合は“異常あり、精密検査が必要です”というお知らせが届きますが、これは必ずしもイコール乳がんというわけではないので、必要以上に心配することはありません。1,000人がマンモグラフィー検診を受けると、50〜100人ほどが精密検査を行い、乳がんと診断されるのは3人程度です。
なおマンモグラフィによる放射線被ばくは主に乳房だけで、一般の人が一年間に受ける自然放射線量の50分の1程度といわれているため、マンモグラフィによる健康被害はほとんどないと考えられています。
乳がんと診断されたら
同じ乳がんといってもさまざまなタイプの乳がんが存在するため、まずは自分の乳がんのタイプを知り、正しく理解しましょう。乳がんの治療法には手術、放射線療法、薬物療法があり、一人ひとりの状態に合ったものを選び、組み合わせて行われます。治療法の選択は乳がんの進行度合いやどのようながん細胞の性質かなど、さまざまな情報にもとづいて、医師と患者さんで相談しながら決定されます。
それぞれの治療法について医師からきちんと説明を受け、自分が納得した上で治療を進めていくことがとても大切です。
また乳がんは治療の副作用で髪が抜けたり、手術により乳房を摘出したりと見た目に影響を及ぼしやすく、外見の変化に悩む女性も多くいます。最近では装着タイプの人工乳房や公衆浴場に入浴するときに傷痕を隠すための入浴着など、術後のライフスタイルに寄り添う製品の開発も少しずつ進んでいます。
乳がんになる危険性は30歳代後半から40歳代にかけて急増しますが、どの年代にも発症の可能性はあります。まだ若いから、出産・授乳経験があるから、もう閉経したからといっても安心はできません。乳がんになる可能性を誰もが自分ごととしてとらえ、セルフチェックや定期検診、食生活の改善などを心がけましょう。