「そんなこと言ったら変に思われるかも」
「普通じゃないって思われたらイヤだな…」
そんなふうに感じたこと、ありませんか?実は(社会的)スティグマや差別の影響かもしれません。今回は、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の中から「寛容・包摂・尊重」というキーワードを軸に、スティグマや差別について考えていきます。
スティグマや差別がもたらす、静かな暴力
スティグマ(Stigma)とは、「烙印」のこと。つまり、個人や集団に対する否定的なレッテルや偏見、差別を指し、スティグマを押された人や集団は、それによって社会的に排除されたり不当な扱いを受けることになります。「メンタルが不安定な人ってちょっと怖いよね」、「LGBTQ+の人たちって、よくわからないし関わりづらい」といった社会の中でまかり通ってしまっている無知や偏見は、当事者自身が、自己を否定的にとらえることにつながっていることもあります。
スティグマは、その人自身の尊厳や安心感を奪ってしまうのです。自分は変なんだと思ってしまう、自分を隠したくなる、誰にも相談できなくなる。その結果、学校や職場で孤立する、偏見で不当な扱いを受けるといったことにつながることがあります。これは静かな暴力といえるのではないでしょうか?
このようなスティグマや差別をなくしていくために必要なのが、「寛容、包摂、尊重」という視点です。
「寛容(Tolerance)」とは、相手を完全に理解することではなく、「理解できない部分があっても、否定せずに受け入れること」。つまり、違っていても共に生きるというスタンスです。
「包摂(Inclusion)」とは、単に「排除されない」ことではありません。多様な背景を持つ人が、安心して声を上げ、自分らしく存在できる環境を作ることを意味します。
「尊重(Respect)」とは自分とは違う意見や感覚を持つ人の声を、きちんと聴くことです。セクシュアリティに限らず、あらゆる人間関係において大切なことです。
スティグマをうみだす差別に対抗する法律を知ろう
日本国憲法では「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定められており、差別や偏見に向き合うための法律がいくつかあります。
- 障害者差別解消法:民間事業者や行政機関が、障害を理由として障害者を不当に差別する行為を禁止し、障害のある人への合理的な配慮を求める法律
- 男女雇用機会均等法:性別による雇用差別をなくすための法律
- LGBT理解増進法:LGBTQ+の人への理解を深めるための法律(ただし少数者の権利擁護ではなく、多数者の権利に配慮する内容になってしまったとの声もあり)
- ヘイトスピーチ解消法:本邦外出身者に対する不当な差別的言動を禁止する法律
- 部落差別解消推進法:部落差別(同和問題)を解消するための法律
また、自治体によっては「パートナーシップ制度」など、独自に多様な家族の形を認める取り組みも進んではいますが、世界の多くの国で認められている同性婚については認められていません。
多様性を認めていくことがスティグマを乗り越える一歩になる
よく、「これは差別じゃなくて、区別してるだけ」と言う人もいますよね。でも、区別と差別の境目はどこにあるのでしょうか?ジェンダー研究の中で、区別が差別の基盤になることは明らかにされています※。たとえば、男女が常に区別されることが当たり前の環境では、そこに差別的な扱いが起こっても気づきにくくなり、差別が認識されないまま容認される環境となります。重要なことは、マイノリティを自分とは関係ないものとしてただ「配慮」するのではなく、自分たちも多様な存在の一人ひとりであり、その違いを大切にすること、多様な存在の一つひとつが、尊重され、包摂される社会の実現です。
スティグマや差別をなくしていくことは、多様なあり方、考え方、生き方が尊重されることであり、それは、自分自身が生きやすくなる社会をつくることにもつながっています。どんな人にも、その人なりの生き方がある。そう信じられる社会は、きっともっと優しいはずです。「わたしにできることは小さいかも…」と思ってしまうかもしれませんが、偏見を広げるような言葉や笑いに流されない、そのままの自分・あなたでいいと言葉にしてみる、SNSで学んだことや気づきをシェアする。こういった一人ひとりの意識と行動が積み重なることで、確実にスティグマは減っていくに違いありません。
※木村涼子『学校文化とジェンダー』 勁草書房 (1999)