分娩(出産)前後のケアについて、世界保健機関(WHO)が推奨し、世界全体で目指されているモデルがあることを知っていますか?
WHOはSDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」および「女性、子ども、青少年の健康のための国際戦略(2016~2030)」に従って、2018年に「WHO推奨:ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」というガイドラインを発表しました。日本は妊産婦死亡率や周産期死亡率は世界で最も低い国の1つですが、妊婦や産後の女性の自殺、産後うつ、乳幼児虐待などは社会的な課題となっています。このガイドラインでは、「ポジティブな出産体験」をすべての産婦さんにとって重要なものとしています。
「ポジティブな出産体験」は以下のように解釈されています。
〈ポジティブな出産体験とは〉
- 前提として、女性が自分の意思に基づいて出産を選択していること
- 思いやりがあって技術的にも優れたスタッフと付き添い人から、実質的な面でも気持ちの面でも継続的な支援を受けられること
- 自分が望む/必要な医療の介入を受けられること
- こころもからだも安全な環境で、健康な赤ちゃんを産めること
- 女性がそれまで持っていた個人的・社会的、文化的な信念や期待を満たしたり、超えたりするような出産体験のこと
会陰切開は推奨してない
例えば日本では医療機関によってまだ行われているケアでもある「会陰切開」を、WHOは推奨していません。もちろん出産の状況によっては妊婦の安全のために会陰切開せざるを得ない場合もあるため、それを全面的に推奨しないという意味ではありませんが、「自然な経腟分娩をしている産婦への、慣例的あるいは積極的な会陰切開の実施は推奨しない」としています。
出産の意思決定に参加することは、産むときだけの問題ではなく、それまでの過程すべてに関わる選択と決定が前提となります。自分たちの出産についての希望を持ち、その希望を伝えること、医療処置についても疑問があれば積極的に質問し、納得した上で出産を迎えましょう。
世界の現状を知ってみよう!
WHOが2018年に発表したレポートによると、 日本の妊産婦死亡率は10万人あたり5人。世界の中でもノルウェーやスペイン、スイスと並び死亡率が低い国のひとつであるため、妊娠と命の危険がなかなか結びつきにくいかもしれません。 ただ、「お産は命がけ」という言葉のように、出産は妊婦さんが命を落とす危険がともなうものであることは間違いありません。
世界での妊産婦死亡率をみると、最もリスクの高い南スーダンで10万人に1150人(推定値)。以降、サハラ以南のアフリカの国々が上位に並び、さらにアフリカの国々や南アジアの国々が続きます。その大きな原因として、衛生状況や栄養状態の悪さ、貧困や格差、女性の健康に対する意識の低さなどが挙げられます。出産前のケアや出産時、産後のケアを受ける費用が捻出できず、医療を受けられなかったり、医学的知識を持つ専門技能者が付き添わない中で出産が行われるということが依然として多くあるのです。
なお、妊産婦の死亡率を減らすことは、SDGsのゴール3(ターゲット3.1)に掲げられています。