
卵子凍結に比べると、まだあまり知られていない精子凍結。 ですが近年は「将来の選択肢を残す方法のひとつ」として注目されるようになってきました。今すぐ自分には関係がないという人も、将来について考えるために知っておきたい医療技術です。この記事では精子凍結とは何か、どんな場面で選ばれているのか、事前に知っておきたい注意点をわかりやすく解説します。
精子凍結とは?どんな目的で行われる?
精子凍結とは、「採取した精子をマイナス196度の超低温で凍結保存し、将来必要になったときに使えるようにする医療技術」です。凍結された精子は、適切な環境で管理されていれば長期間保存が可能とされています。 保存した精子は、将来、体外受精や顕微授精などの不妊治療に使用されます。
精子凍結は特別な人だけのものではありません。 実際には、次のような理由で選ばれています。
1.がん治療の前に、将来の妊娠の可能性を残したいとき
抗がん剤治療や放射線治療は、精子をつくる機能に影響を与えることがあります。治療の内容によっては、治療後に自然に精子をつくることが難しくなる場合もあります。そのため、治療を始める前に精子を凍結保存しておくことで、将来子どもを持つ可能性を残すことができます。このように将来の妊娠の可能性(妊孕性/にんようせい)を守る目的で行われる治療を「妊孕性温存治療」と呼びます。
自治体によってはがん治療を始める前の妊孕性温存療法の助成制度もあり、精子凍結もその対象になる場合があります。
2.不妊治療の備えとして
不妊治療では、人工授精や体外受精の当日に精子を十分に採取できないこともあります。あらかじめ精子を凍結保存しておくことで、 治療のタイミングに合わせて精子を使用することが可能になります。
3.トランスジェンダーのホルモン療法前の妊孕性温存として
ホルモン療法を行うと、治療を続けている間は妊孕性が大きく制限されます。また生殖腺の摘出を受けた場合、生殖能力は完全に失われます。 そのため、治療を始める前に妊孕性について考えることが重要になります。
性別違和により女性ホルモンの投与を始める前に、妊孕性温存を目的として精子凍結を行うことが可能です。なお、多くの医療機関・学会ガイドライン上では原則として「日本国内では、凍結精子を使用できるのは婚姻関係にある夫婦間の不妊治療のみ」とされています。第三者への提供や譲渡は認められていません。
4.すぐに子どもを持つ予定はないけれど、将来の選択肢を残したいとき
「今は仕事を優先したい」、「将来どう生きるか、まだ決めきれていない」。そんな理由からライフプランの一部として精子凍結を考える人もいます。 精子凍結は、将来について考えるための準備のひとつでもあります。
精子凍結はどうやって行われる?
医療機関で行われる精子凍結の基本的な流れは、次の通りです。
① 医師からの説明・同意
目的やリスク、保存期間、費用などについて説明を受け、同意書にサインします。
② 精子の採取
病院内の専用スペースで、マスターベーションによって精液を採取します。
③ 精子の検査・処理
採取した精液を検査し、必要に応じて洗浄や選別を行います。
④ 凍結と保存
精子はそのまま凍らせると傷ついてしまうため、凍結から守る薬剤を加え、徐々に温度を下げて保存します。
⑤ 将来、必要になったら使用
使用する際は、精子をゆっくり解凍し、不妊治療に用います。一度解凍した精子は、基本的に再凍結はしません。
精子は適切な管理下であれば長期間保存できますが、 保存期間や更新ルールは医療機関ごとに異なり、定期的な保存料がかかるケースがほとんどです。
精子凍結は万能な方法ではありません。事前に知っておきたいポイントがいくつかあります。まず、精子凍結は保険適用外ですべて自費診療になります。また精子の数や質によっては、凍結できない場合もあります。凍結後、将来使うかどうかは本人の判断に委ねられ、 「凍結した=必ず子どもを持てる」わけではないという点も重要です。妊娠・出産の選択肢が増えたのはいいことですが、卵子凍結と同様、デメリットやリスクを十分理解しておくことが必要です。