メディアのジェンダー不平等

メディアに潜むジェンダー不平等
――“当たり前”を疑う視点を持とう

internet gender inequality in the media 0
テレビ、SNS、広告。私たちが何気なく日常的に触れているメディアは、実はまだまだ偏ったジェンダー表現を数多く含んでいます。たとえば「女性は若さや美しさを保つことが重要」「男性は感情を見せずに我慢するべき」といったメッセージ。これらはユネスコなどの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』が指摘するように、ジェンダーステレオタイプを再生産し、性的行動や体型に対して非現実的な期待を植えつける原因となります。

また、こうした表現は個人の自己肯定感を下げるだけでなく、社会全体に「こうあるべき」という無意識の思い込みを広め、ジェンダー平等の実現を妨げています。この記事ではメディアにはどんなジェンダー不平等が潜んでいるか、そして間違った情報に惑わされず、正しい情報を受け取るためにどうしたらいいかについて考えます。

メディアが作り出すジェンダー不平等とは?

テレビや映画、広告、SNSなど、様々なメディアが性に関する偏ったイメージを繰り返し流すことで、ジェンダー不平等が作り出されています。

例えば以下のような例が挙げられます。

  • 香水やファッションの広告では、「女性=セクシーで受け身」「男性=力強くリードする」
    という構図が今も多く見られます。美しい映像に惹きつけられる一方で、こうした繰り返しは「女性はこう振る舞うべき」「男性は主導権を握るべき」というステレオタイプを強化してしまいます。
  • InstagramやTikTokでは、加工アプリやフィルターで整えられた“完璧な体型”や“理想的な恋愛”が大量に流れてきます。これらはエンタメとして楽しむ一方で、ユネスコなどの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』が警鐘を鳴らすように「自分は足りない」という感覚を生み出し、自尊心を下げる要因にもなります。また、ジェンダー、セクシュアリティに関する描写についても、「異性愛」間の「恋愛」が過度に規範、「当たり前」として描かれている現状もあります。性的に露骨な画像や映像も同じく、現実離れした身体や行動を「当たり前」の基準にしてしまう危険があります。
  • 人気ドラマでは、女性キャラクターが「待つ役割」を演じ、男性が積極的に愛情を示す場面がよくあります。それがフィクションであっても、「恋愛はこう進むもの」という無意識のイメージを植え付けてしまい、現実の関係にプレッシャーを与えることもあります。

こうした表現が繰り返されることで、私たちは無意識に「それが普通だ」と思い込んでしまいます。その結果、現実の自分や他者との関係に対して「普通」とのギャップを感じたり、ジェンダー不平等を受け入れてしまうことがあります。

調査結果から考える、メディアが影響を与える意識や行動

こういったメディアがジェンダーにまつわる意識・行動に影響を与えていることが調査結果から考えられます。

たとえば令和5年の国民健康・栄養調査では、BMIが18.5未満の「やせ」に当てはまる女性は全体で12.2%でした。しかし20~30代女性に絞ると、その割合は20.2%、つまり5人に1人が「やせ」という状態です。しかもこの割合はこの10年間ほとんど変わっていません。そのため国の健康政策「健康日本21(第三次)」でも、若い世代の「やせ」を減らすことが大きな目標のひとつになっています。こうした背景には、「細いことが美しい、価値がある」というSNSやメディアのイメージが大きく影響していると考えられます。

また、世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」で日本は先進国の中ではかなり順位が低く、政治分野や経済分野での女性の登用・参加・影響力に遅れがあるとされています。その影響でメディアがリーダーを紹介するときは男性に偏る傾向が強く、それが「リーダーは男性」という先入観をさらに強めてしまいます。その結果、若い世代が女性リーダー像を想像しにくくなるきっかけにもなります。


情報を発信する側のジェンダー不平等

さらに、メディアとして情報を発信する側のジェンダー不平等も深刻です。
例えばNHK放送文化研究所の「2023年度 テレビ番組に出演・登場する人物の多様性」に関する調査によると、テレビ番組全体では女性と男性の割合は4対6。一方、夜のニュース報道番組では 3対7 と、男性の割合が高い結果となりました。ニュース報道番組に限ると女性のレギュラー出演者数が初めて男性を上回りましたが、年齢層で見ると女性は主に若い層に偏っている傾向が見られました。テレビの世界では依然として「中高年の男性と若い女性」の構図が続いています。

また、内閣府の「女性の政策・方針決定参画状況調べ」(令和5年度)によると新聞、通信社の記者総数に占める女性記者の割合は2023年には24.7%と増加傾向にはありますが、依然として低い割合です。
このように「誰が語り手になるのか」「どんな役割が割り当てられるのか」には偏りがあり、結果として私たちの意識に大きな影響を与えています。

私たちはメディアとどう付き合うべきなのか?

ではメディアのジェンダー不平等に惑わされず、正しく付き合っていくにはどうしたらよいのでしょうか? ポイントをいくつか挙げます。

1. メディアが言っていることを鵜呑みにしない
メディアと一言で言っても、「正しい情報」と「間違った情報」が入り混じっていることを意識しましょう。YouTubeやInstagram、TikTokなどのSNSは、誰でも気軽に情報を発信できる一方で、オールドメディア(新聞・テレビ・雑誌)のように編集部や記者による裏取りの仕組みが整っていないことが多くあります。そのため、事実確認が不十分なまま誤情報や偏った見方が拡散される危険性があります。

特にジェンダーやセクシュアリティに関しては、「男性はこうあるべき」「女性は〇歳までに結婚すべき」といった根拠のない価値観がショート動画やSNS投稿で広まりやすく、若い世代の考え方に大きな影響を与えかねません。「これは正しい?」「これは出典や執筆者名が明らかになっている?」「根拠が示されている?」と疑ってみたり、誰かと情報交換をして確かめてみるといったことが、偏見に流されないための第一歩です。

2. 多様なメディアに触れる
SNSだけでなく、ジェンダー平等を意識したニュースサイトや国際機関の情報にアクセスすることも有効です。正しい情報に出会うチャンスを増やすことで、間違った情報に振り回されにくくなります。

3. 声を上げる・シェアする
広告や番組に不平等な表現を見つけたとき、SNSで共有したり、意見を届けたりすることが社会を動かす一歩になります。小さなアクションでも、同じ問題意識を持つ人とつながるきっかけになります。

メディアが作り出すジェンダーの不平等は、私たち一人ひとりの心に影響し、やがて社会全体の価値観を形作ります。しかし同時に、メディアには新しい情報を得たりコミュニティを作ったり、それだけでなく、「ジェンダー平等を促進する力」もあります。私たち一人ひとりが、ときに批判的に、主体的にメディアを受け止めていくことが、よりよいメディアとの付き合い方はもちろん、平等で自由な未来につながるはずです。