
もし自分の写真が勝手に加工され、知らない場所で広がっていたら——。そんなことが特別な誰かの話ではなくなりつつあります。AIの急速な進化によって、オンライン上の性をとりまく課題は新しい段階に入りました。いま何が起きているのか、そして私たちは何を知っておくべきなのか。この記事ではデジタル時代の「性の権利」について考えます。
いま起きている「デジタル性暴力」
スマートフォンやSNSが当たり前になったいま、私たちの「性」もまた、オンライン空間と切り離せないものになっています。さらに近年は、生成AIの進化によって、これまでにはなかった新しいかたちの被害も生まれています。AIによる性暴力は特別なものではなく、すでに身近なところで起きているのです。
警察庁のまとめによると、2025年1月〜9月に寄せられた「性的ディープフェイク」に関する相談のうち、被害者の約8割が中高生でした。また、加害者の約半数は同級生など、同じ学校に通う生徒だったといいます。AI技術の進化によって、たとえば卒業アルバムなどの写真を悪用した性的画像の被害が広がっています。AIによるディープフェイクポルノ以外にも、デジタル性暴力には以下のようなものがあります。
- アイコラ
顔写真と別の裸の画像を合成し、本人を性的におとしめる行為 - リベンジポルノ/無断拡散
過去に共有した性的な画像や動画が、関係の変化後に公開される - セクスティング被害
メールやSNSのやりとりの中で送った性的なメッセージや画像、動画などが意図しない第三者へ拡散されたり、それを悪用されて脅迫されたりする - 盗撮・無断撮影
日常の中で気づかないうちに撮影され、共有される - SNSでのグルーミング
親しげなやりとりを通じて信頼関係を築き、性的な行為や画像送信を誘導される - エアドロ痴漢
AirDropなどを使った性的な画像や動画の一方的な送信
これらはすべて、現実の身体に触れていなくても起こる性暴力です。こうした被害は「ネットの問題」でも被害者の「自己責任」でもありません。性的自己決定権や尊厳を侵害する、明確な性暴力です。
デジタル性暴力は「現実には起きていない」と軽く見られがちです。しかし実際には、一度ネット空間に流出した画像や映像を完全に消去することは難しく、一度の被害でも「誰かに見られているのではないか」という不安が続くなど、深い精神的ダメージを受ける人も少なくありません。
AIとの付き合い方も、課題です。うまく使えば日常をとても便利にしてくれるもので、最近では、悩み相談の相手としてAIを使う人も増えています。AIは否定せずに応答してくれるため、安心できる存在に感じられることもあります。一方で、AIが誤った助言をしてしまう、「AIは正しい」という思い込みで判断してしまう、悪意ある人がAI的な振る舞いで信頼を得るといったリスクも指摘されています。“安心できる相手に見えること”と“安全であること”は別であるという視点はこれからますます重要になります。
法律も変わりはじめている
こうした状況を受けて、日本でも法整備が進んでいます。2023年には、「性的姿態撮影等処罰法(いわゆる撮影罪)」が施行されました。これは、性的な部位や下着などを、同意なく撮影・盗撮する行為を処罰する法律です。これにより
- 性的な画像の無断撮影や拡散が処罰対象に
- 16歳未満の子どもに対して、性的な画像を要求するだけでも犯罪
といった規制が強化されました。
一方で、こうした行為が「犯罪」や「性暴力」であるという感覚が、徐々に麻痺してしまうケースも少なくありません。特に、秘匿性の高いメッセージアプリやクローズドなコミュニティの中では、性的な画像の共有や拡散が“仲間内のノリ”として消費されやすく、気づかないうちに加害感覚が薄れていくことがあります。
「直接触れていないから」「オンラインだから」「みんなもやっているから」。そんな空気の中で、本来であれば深刻な性暴力である行為が、軽いコミュニケーションの延長のように扱われてしまうのです。
しかし、画面の向こう側には傷つく誰かがいます。同意なく性的な画像を撮影・保存・拡散することは、相手の尊厳や権利を侵害する行為であり、オンライン上であっても責任が問われます。
さらに2025年には、AIの活用に関する基本的なルールを定めた法律も施行されています。
この中では、
- AIによるリスクをどう防ぐか
- 国際的なルールに沿った運用
- ディープフェイクポルノへの対応や被害者保護
などが示され、削除要請の強化や被害者支援の必要性も盛り込まれました。ただし、AIの進化スピードに対して、法律の整備が追いついていないのも現状です。
困ったとき、ひとりで抱えないで
もしデジタル性暴力被害にあった場合、ひとりで抱える必要はありません。例えばNPO法人「ぱっぷす」をはじめ、デジタル性暴力に特化した相談窓口もあります。拡散した性的画像・動画・ディープフェイクポルノ等の削除に向けた支援、証拠保全援助、刑事事件化の援助(相談記録提出、同行)、法律相談の同行など、状況に応じたサポートを受けられる可能性があります。
悪いのは、100%加害者です。加害者を罰し、被害者を守る法律も整備されつつあります。画像の拡散等のオンライン性暴力の場合、被害の拡大を出来る限り減らすためにも、一刻も早い対処が必要です。あなたの意思やプライバシーは守られます。ひとりで抱え込まず、まずは相談してみてください。
セックスや身体に関することは、本来自分で選べることが権利であるべきものです。この考え方はオンラインでも変わりません。誰が、どのように、自分のイメージや身体を扱うかを決める権利、それが「性的自己決定権」であり、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)です。AIやインターネットの進化によって、性に関するリスクのかたちは大きく変わりつつあります。でも、その中で変わらない大切なこともあります。同意があること、 自分の意思が尊重されること、 安心して関係を築けること。これらは、オンラインでもオフラインでも守られるべきものです。
デジタル時代のいま、必要なのは「怖がること」ではなく、知識を持って、自分の権利を理解すること。それが自分自身と周りの大切な人を守ることにつながっていきます。