
InstagramやTikTok、YouTube、Xなど、SNSはもはや私たちの生活に当たり前に溶け込んでいます。友達とつながったり、好きなことについて情報を集めたり、自分の考えを発信したり。SNSにはさまざまな楽しさや便利さがあります。
一方で、誹謗中傷やいじめ、性的な画像や動画、有害な広告、知らない人からの接触など、子どもや若者が危険にさらされる可能性もあります。
「それなら、一定の年齢になるまでSNSを使えないようにすればいいのでは?」
いま世界では、そんな議論が広がっています。でも、SNSを禁止すれば、すべての問題は解決するのでしょうか?
世界で広がる「SNSの年齢規制」
SNSの年齢規制で大きな注目を集めたのがオーストラリアです。
オーストラリアでは、16歳未満が、対象となるSNSのアカウントを持つことを防ぐため、プラットフォーム側に「合理的な措置」をとることを求める制度が始まりました。
さらに英国も2026年6月、16歳未満によるInstagramやTikTok、YouTube、Xなどの利用を制限する措置を公表しました。
規制が検討される背景には、子どもをオンライン上のさまざまな危険から守りたいという考えがあります。
ユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』でも、SNSには多くの利益がある一方で、自分や他者を危険にさらす可能性があることや、安全で責任ある利用方法を学ぶ必要性が示されています。
日本でも「子どもをどう守る?」という議論が進んでいる
日本でも、子どもがインターネットを安全に利用できる環境をどうつくるか、議論が続いています。
こども家庭庁では、SNSを通じた性暴力や詐欺、誹謗中傷、有害情報などの問題を踏まえ、子どもの権利を尊重しながら、安全・安心にインターネットを利用できる環境について検討しています。
また2026年7月には、国民民主党が、インターネット上で子どもが意図せず性的な広告を目にする問題に対応するため、「青少年インターネット環境整備法」の改正案を議員立法として参議院に提出しました。
この法案は子どものSNS利用そのものを禁止するものではなく、大規模なデジタルプラットフォーム事業者に対して、青少年にとって有害な情報を含む広告への対応を求めるものです。
つまり、「子ども自身にSNSを使わせない」という方法だけでなく、子どもが使うサービスを“提供する側”にも、安全な環境をつくる責任を求めようという考え方です。
「禁止すれば安心」とも言い切れない
一方で、年齢による一律の禁止には慎重な意見もあります。
フランスでは、15歳未満によるSNS利用を禁止する法案が議会で可決されましたが、2026年8月、憲法評議会が違憲と判断しました。
理由のひとつが、子どもの年齢や成長の度合い、サービスごとのリスクなどを考慮せず、一律に禁止することによって表現の自由を過度に制限してしまうことです。また、年齢を確認するために大人を含む利用者の本人確認が必要になることについても、プライバシーの観点から問題が指摘されました。
SNSから子どもを守ることは大切。でも、「守ること」と「権利を尊重すること」をどう両立するかは、簡単に答えが出る問題ではないのです。
SNSには「情報にアクセスする場所」という側面も
「子どもの権利条約」では、子どもは単に大人から守られる存在ではなく、自分自身の権利を持つ「権利の主体」と考えられています。そこには、暴力や搾取などから守られる権利だけでなく、自分の意見を表明することや、さまざまな情報にアクセスすることなども含まれています。
SNSは危険に出会う可能性のある場所である一方、学んだり、人とつながったり、自分を表現したりする場所でもあります。
ユニセフは2025年、SNSの年齢制限をめぐって「年齢制限だけでは子どもを守れない」とする声明を発表しました。特に孤独感や疎外感を抱える子どもにとって、SNSは学びや交流、自己表現につながる重要な手段になることもあると指摘しています。
また、禁止によって子どもが規制の緩いサービスなどへ移れば、かえって大人の目が届きにくくなる可能性もあります。
大切なのは「守る」だけでなく「安全に使える力」を育てること
では、子どもをSNSのリスクから守るにはどうすればいいのでしょうか。
年齢制限も、その方法のひとつかもしれません。しかし、それだけですべてのリスクをなくすことはできません。そこで世界で進められている取り組みのひとつが、「デジタル・シティズンシップ教育」です。
欧州評議会(※)では、デジタル・シティズンシップ教育を、子どもや若者がデジタル社会に積極的に参加し、責任を果たしていくために必要な価値観や態度、スキル、知識などを身につけるための教育と位置づけています。
大切なのは、インターネットの危険を教えて遠ざけることではなく、デジタル技術がもたらすメリットや機会を生かしながら、そこで起こりうる問題に自分で向き合える力を育てていくことです。
欧州評議会が示すデジタル・シティズンシップ教育には、「メディア・情報リテラシー」や「健康とウェルビーイング」「プライバシーとセキュリティ」だけでなく、「権利と責任」や「積極的な参加」なども含まれています。
企業が子どもにとって安全なサービスを設計すること。有害なコンテンツや広告に適切に対応すること。そして家庭や学校では、単に「使ってはいけない」と教えるのではなく、安全に使い、自分や他者の権利を尊重しながらデジタル社会に参加する力を育てていくこと。さらに、その過程で子ども自身の意見にも耳を傾けること。
SNSを「危険だから遠ざけるもの」とだけ捉えるのではなく、そのメリットとリスクの両方を知り、安全に使う方法を学んでいく。
子どもを危険から「守ること」と、デジタル社会の一員として自分で考え、選び、行動する力を「育てること」。その両方をどう実現していくのか。世界で始まったSNSの年齢規制とデジタル・シティズンシップ教育の広がりは、私たち一人ひとりにもそんな問いを投げかけています。
※欧州評議会(Council of Europe):人権、民主主義、法の支配を守ることを目的に、1949年に設立されたヨーロッパの国際機関。現在46か国が加盟している。EU(欧州連合)とは異なる組織。