避妊の選択肢

日本の避妊方法は、
世界に比べてどうして選択肢が少ないの?

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避妊は妊娠を防ぐだけでなく、自分とパートナーの体を大切にし、自分らしい人生設計をしていくために不可欠な手段。なのに日本では避妊に積極的であろうとする特に女性に対する根強い偏見が残っており、パートナーに避妊についての意見が言いにくかったり、ピルの存在を知っていてもなかなか手を出すことができない人が多いといいます。結果的に、避妊の主導権は男性だけが握っていることも多いです。対して、世界には女性が主体的にできる避妊方法の選択肢が多くあります。

この記事では、日本ではあまり知られていないものの世界では普及しているさまざまな避妊方法の紹介と、避妊に関する日本社会の現状について考えます。

パッチ、注射etc…。日本であまり知られていない世界の避妊事情

日本で認可されている主な避妊法は「コンドーム」「低用量ピル」「IUS/IUD(子宮内避妊具)」。飲み忘れや失敗も含む一般的な使用における成功率は、コンドームが82%、低用量ピルが93%、IUS/IUDが99%となっています。性感染症を防ぐにはコンドームの使用が重要ですが、避妊法としては失敗も少なくありません。妊娠を望まない場合にはコンドームと他の方法との併用がお勧めですが、日本では男性主体の避妊方法であるコンドームだけを選択する人が多いです。

それぞれの入手方法や値段、保険適用や内診の必要性の有無は以下の通りです。

〈日本の避妊法〉
  • コンドーム(ペニス用)(成功率82%)
    入手方法:ドラッグストア、コンビニ、オンラインショップで購入可能
    値段:1箱500–1000円程度
    保険適用:なし

  • 低用量ピル(成功率93%)
    入手方法:婦人科で処方箋を取得後、薬局で購入
    値段:月3000–5000円程度
    保険適用:避妊目的の場合は全額自己負担
    内診の必要性:初診時は血圧測定が必須ですが、必ずしも内診は必要ありません

  • IUS/IUD(子宮内避妊具) (成功率99%)
    入手方法:婦人科での施術
    値段:2–6万円程度
    保険適用:避妊目的の場合は全額自己負担
    内診の必要性:あり

  • アフターピル(24時間以内に服用した場合は成功率95%以上)
    入手方法:現在アフターピルの処方方法は4つあります
    ①医師の診断後、その場で処方される
    ②医師の診断後処方箋を受け取り薬局で受け取る
    ③オンラインで医師の診断後1日後に配送される
    ④医師の診断は不要で、特定の薬局で処方箋なしで購入する(研究の段階、条件付きで全国145か所の薬局で実施中)
    値段:1回1万円程度
    保険適用:なし

日本でピルが認められたのが1999年。1960年にアメリカで最初に認可されてから長い間承認されなかったこともあり「ピルは副作用もあるし、なんとなく怖い薬」というイメージが先行して使用者があまり増えませんでした。また医療機関でないと手に入れることができず、避妊目的のピルは保険適用外で経済的負担が大きいことから、日本では避妊といえばコンドームという風潮が現在でも続いています。

これに対して、世界の避妊事情はだいぶ違っています。例えば一度打つと3ヶ月避妊効果を保つ注射、1週間ごとに張り替えればよい避妊パッチなど、日本で知られていないものを含めて、10種類以上の避妊方法があります。

〈世界で普及している避妊法の一部〉(成功率は一般的使用によるもの)
  • 避妊パッチ(成功率91%)
    上腕、腹部、お尻、背中の内、好きな場所1か所に貼ることでホルモンが出て妊娠を防ぐことができる。1週間ごとの交換を3回繰り返し、1週間はお休みする。

  • 避妊注射(成功率94%)
    3ヶ月ごとに接種する。避妊していることが他人には分からないためプライバシーも守られる。

  • 避妊インプラント(成功率99%)
    上腕の皮下に入れる避妊具。マッチ棒くらいの大きさで妊娠を防ぐホルモンを出す。

  • 腟用コンドーム(成功率79%)
    腟内に装着して精子の侵入を防ぐ、バリア型の女性用避妊具。

参考:
https://www.plannedparenthood.org/learn/birth-control
https://www.nandenaino.com/

このように世界には女性主体の避妊方法の選択肢が数多くあることが分かります。なお、繰り返しになりますが、性感染症を防ぐ役割はコンドームにしかないため、コンドーム+他の避妊方法の併用が理想的です。

また、日本では一般的に薬局販売のないアフターピルですが、イギリス、スウェーデン、ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリア、アメリカをはじめ、90カ国以上で薬局販売があり、費用も数百円から数千円程度。スウェーデン、ドイツなど未成年には無料の国や、フランスでは保健室にも常備されていて、イギリスでは病院で貰うと年齢問わず無料です。

避妊に関する誤解と危険な方法

避妊についての誤った知識や、科学的根拠のない方法も多く存在します。例えば以下に挙げるものは成功率が極めて低かったり根拠がなかったりして、避妊法にはなりません。

  • 腟外射精
    射精前であってもペニスから通称ガマン汁という精子を含んだ分泌液が出ており、また、ペニスを出すタイミングが遅れることもあります。

  • オギノ式
    月経周期から排卵期や安全日を推測するオギノ式。排卵期は月によってずれたり、生理不順の人は排卵日が分からなかったりするため、自分で排卵時のおりものの様子がわかり、排卵日を確定できる人以外は避妊法とはいえません。

  • 腟内洗浄
    精子を洗い流すことで避妊できると考える人がいますが、実際には精子を洗い流すことはできず、妊娠を防ぐ効果はありません。

  • 月経中はセックスしても妊娠しない
    女性の排卵のタイミングは容易に変化する上、腟からの出血には不正出血などもあり、すべての出血が月経とは限りません。また、精子は卵管の中で約3〜5日間生存し続けることがあることを踏まえても、月経中のセックスでも妊娠する可能性はゼロにはなりません。

なぜ日本では避妊方法の選択肢が少ないの?

  1. 医療システムの構造
    日本では、一部の避妊方法に関する処方や施術について、基本的に医師が行う必要があり、海外のように、専門教育を受けた看護師や助産師が処方をするといったことができません。医薬品の承認プロセスはもちろんのこと、医薬品を薬局で販売することの承認プロセスも厳しいです。これは医療の質を保つためとされていますが、一方でアクセスのハードルが高くなる結果となっています。

  2. 文化的・社会的要因
    性に関する話題がタブー視される文化や、「妊娠したのは女性の責任」とされる偏ったジェンダー観が根強いことも影響しています。そのため、避妊の研究や普及活動が他国ほど積極的に進められていないのが現状です。また、昨今世界的には「射精責任」に大きな関心が集まっていますが、日本社会では中絶や望まない妊娠について、本来は男性にも同等の責任があるのに、女性だけの問題とされてきた歴史があります。

  3. 市場があると思われていないこと
    日本ではピルの使用率が他国と比べ極めて低いため、需要がない、すなわち市場がないと思われやすく、結果として企業も参入せず承認プロセスが進まない現状があります。しかし、これはただ需要がないのではなく、たとえば今使える方法やその他様々な避妊法について知識を得る機会が限られていることが原因です。日本の学校教育では、性教育の範囲が限られており、避妊方法に関する具体的な知識が十分に提供されず、ピルの副作用への漠然とした不安などに対応できていません。また、価格も問題です。低用量ピルと子宮内避妊具に関しては、避妊目的の場合には保険適用外、月経困難症治療の場合には保険適用になります。もし避妊にも保険適用がされるのであれば使用率は変わるかもしれません。低用量ピルと子宮内避妊具は、避妊法にも月経困難症の治療法にもなるということを知り、上手に医療にアクセスできるような教育が不足していることも問題です。

性的自己決定権の基盤であるSRHR、包括的性教育についての情報・認知は、アジアも含めて世界に広がっていますが、日本ではまだまだ不十分かもしれません。
日本の避妊方法が少ない要因はさまざまですが、どの国の人にとっても妊娠は女性の人生において大きな転機となる出来事であり、今の時代は自分で決められるようにたくさんの選択肢がある社会であるべきです。署名やアンケートで気軽に参加できる、女性の避妊方法の選択肢を増やすための活動もあります。できることから始めていきませんか?