SWEDENの性教育(前編)

セクソロジー、ジェンダー平等をリードするスウェーデン

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毎年発表される世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では常に上位にランクイン、2018年に成立した性的同意法(明確な同意がなければ全てレイプ)が話題になるなど、世界のジェンダー平等をリードするスウェーデン。日本のジェンダー平等やセクソロジーへのヒントを求めて、いくつかの組織を取材しました。

性的同意を広めるための団体
Fatta


Fatta は性的同意を文化として根付かせる活動を行っている団体です。Fattaの発足は、スウェーデンで起きたある事件がきっかけでした。2013年、15歳の少女をガラス瓶で強姦した罪に問われた19歳の男性3人が無罪となり、この判決に対して国中で大規模な抗議活動が起きました。Fattaは講演、キャンペーン、アドボカシー活動(政治や経済、社会制度へ影響を与えるために個人やグループが行う活動・運動のこと)を通じて、性的同意法の成立をリードしました。

Fattaは、性的同意を実現するための6つのステップを提示しています。(LET’S TALK ABOUT CONSENT BABY!キャンペーン 公式サイトより、以下抜粋引用)


〈性的同意を実現するための6つのステップ〉

①まずは自分自身が、自由意志に基づく行為を望んでいるか自覚すること
同時に、性暴力や強制的行為がいかに人を傷つけるかを知ることも大切。

②相手が確実にその行為を望んでいるかを確認すること
相手の言葉、動作、声のトーンで推し量れる。Yes以外は全てNo!

③相手が自分の思いを伝えることができる安全な環境づくりをきちんとすること
相手が自分より弱い立場にある時は特に気をつける。また、人は考えが変わることもあるので、途中からでもその思いを伝えられる環境作りも責任のひとつ。

④お互いが何を望んでいるかを基本に関係を築くこと
恋人、友人、家族など、特に近い関係性だからこそ、「相手のためになにかしなきゃ!」という思いで嫌でも我慢してしまうことがある。「彼氏・彼女だから◯◯してくれるはず」といった「期待」ではなく、「互いが何を望むか」で関係を築くこと。

⑤自分たちが本当にその行為を望んでいるか理解すること
傷つくようなことにYesと言ってしまうことのない、互いのバウンダリー(境界線)を尊重し、自分たちが望むことを分かり実行できる関係性を築くこと。自分自身を省みることも大切。

⑥以上5項目をセックスの際に確認。お互いが心から望んでいることを明確にすること
難しいけれど、これが一番大事。相手の思いを聞き、自分自身の立ち位置に責任を持つ。また、「◯◯だから」といった期待を捨て、自身の望みもきちんとわかり、互いが本当に望む行為をすること。それではじめて、尊敬、理解、思いやりのあるセックスができる。
(翻訳:福田和子 https://gendai.media/articles/-/64102より引用)

2018年の同意法への改正を受けて、スウェーデンの学校では2022年秋学期より、「性と同棲」の領域が「セクシュアリティ、同意、関係性」に名称変更され、カリキュラムの中で同意の一層の重要性が明確化されました。

元々は抗議活動のために結成されたFattaは、現在は性的同意を広めるための団体として活動しています。

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「事件があって、性交同意法が必要だと思い立ち、私たちはアーティストたちとともに一般の人々に訴えかけて政治に圧力をかけようと思いました。#MeTooが追い風になり、私たちもその一部になりました。合意を形成し、法案を起草して法律にするまで5年。スウェーデンでは早い立法化でした。
Teaの動画を見たことがありますか?あの動画で人々の意識が変わりました。新しい法律ではあのように同意について確認する必要があります。ハグしていいですか?キスしていいですか?と全て確認する必要があります。
法律ができる前までは被害者が「Noと言った?」と聞かれました。抵抗しなかったんですか?なぜそんなスカートをはいていたのですか?なぜ夜中に出かけていったんですか?などと警官に聞かれ、辱めを受けたりこちらにも落ち度があったのでは、と思わされていました。恐怖を感じると人は思考も動きもフリーズしてしまうのです。でもいまは、Yesと言いましたか?いいえ、言ってません。それだけで十分です。

Fattaはいま同意の文化を作ろうとしています。それにはどのように話すか、お互いをどのように見るか、どんなジョークをいうか、なども含まれます。私の8歳の息子も同意を理解していて「ハグしていい?」と聞きますし、私も彼にそう聞きます。
文化を変えるのはとても大きなことです。もっと速く進めるはずだと歯がゆく感じることもありますが、正しい方向に進んでいると思います。」

包括的性教育とセクシュアリティ・ジェンダー平等政策のための非営利団体
スウェーデン性教育協会RFSU


スウェーデン性教育協会RFSUは1933年から続く、包括的性教育とセクシュアリティ、ジェンダー平等政策のためのNGOです。

全国に約20ある各地域の支部では、特別なトレーニングを受けたメンバーが、性、セクシュアリティに対してオープンでポジティブな姿勢で情報を提供しています。現在RFSU ストックホルムだけでも約 1,600 人の会員がいます。

RFSUは創立以来、中絶や避妊の権利、学校での性教育、同性愛者の非犯罪化などの課題をスウェーデン社会に訴えてきました。彼らは事業の資金を得るためにコンドームの販売を始め、それは現在も事業会社RFSU ABとして継続中。より質の高い、快適で安全な性生活を実現し、幸福度を高めるためのボディ、セックス、ウェルビーイングカテゴリーの高品質な製品を主に北欧で販売しています。この事業会社RFSU ABの活動で上げた収益を、非営利団体であるRFSUの活動資金としているのです。
当初は強い逆風の中での活動だったとのことですが、やがてそれは大きな変革につながり、様々な法律の改正にまで発展しました。

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RFSUは、知識、コミットメント、影響力を通じて、 すべての人が自分の身体とセクシュアリティについて自由に決め、楽しむことができる世界の実現に貢献すること を目指しています。
RFSUで長年の経験を持つメンバーは、学校を訪問して性教育の授業を補完するセッションやワークショップを運営したり、休日のイベントで情報提供をしたりしています。チャットでも相談に乗っています。ワークショップやイベントを通して子どもたちに基本的な知識を提供し、セクシュアリティ、アイデンティティ、お互いを思いやること、ポルノ、安全なセックスなどのテーマでディスカッションをリードします。

例えばポルノに関しては、そのポルノが、有害なジェンダー規範やルッキズムの強化、性的同意の軽視や暴力、企業の利益を優先した搾取などに繋がっていないか、避妊はできているか等について、批判的に見る練習を行います。ポルノとどう向き合えば良いか、ただ非難したり貶めたりするのではなく、批判的に見たり考えたりするスキルを身につけ、ポルノとの有害でないヘルシーな向き合い方を考えます。というのも、今や若者はスマホ一つで容易にポルノにアクセスできますが、その中で見たからだや関係性の構築、セックスについて誰かと話して不安を解消したり、現実と異なる描写について知ることが容易ではないからです。またこの授業では、ポルノが主なテーマではありながら、生物学やコミュニケーションと同意、人間関係、性感染症など、性教育の他の重要な部分も合わせて学ぶことができます。

映画をベースに「同意、お互いを思いやること、性暴力とのグレーゾーン」について、参加者をリードして議論を行うクラスもあります。

近年では急増している移民の方たち向けに、より簡単なスウェーデン語でのクラスも用意しています。特別なトレーニングを受けたスタッフが映像資料を多用し、ゆっくりとしたペースで包括的な方法で教えています。対面だけでなく、オンラインの授業にも対応。セクシュアリティ、アイデンティティ、互恵性、セーファーセックスなどのテーマについて、基礎知識と振り返りの機会を提供するクラスもあります。

また、RFSUとRFSUクリニック(ストックホルム市内にあります)では、性教育やセクシュアルヘルスに関する事柄について知識を深めたい人のために、短時間の講義から大学レベルの内容まで、あらゆるコースやトレーニング、レクチャーを提供しています。

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「RFSUでは、ジェンダーについて正しい知識を伝えることによって、性暴力を未然に防ぐアプローチを取っています。最近では、フェスなど多くの人が集まる場でなにか性暴力が起きそうなときに介入して止める”アクティブな傍観者”という活動も進めています。障がい者の性についてのキャンペーンもはじめましたが、とてもいい反応です。

EUの国々はもとより、南アフリカ、ジョージア、カンボジア、スーダンなどの国々とも連携をとり、各国の人々に対して状況に応じた支援をしています。国内にいる移民に対しても、彼らの母国語を使ったオンライン動画などで情報発信しています。

スウェーデン国民がRFSUと関係ができるのは、10歳前後に学校教育で、私たちが提供する教材を通して、ということが多いと思います。

政治との関係では、特定の政党に肩入れすることはなく、政策ベースで意見を表明したり、間違った知識がベースになっていると思われるものについては政治家を招いての勉強会を実施したりしています。

私たちが事業会社を持っていることには大きな意味があります。国や地方政府からの助成金とは別に独自の財源を持っているため、必要があれば彼らに反対することもできるのです。」

ジェンダー平等と、男性による暴力防止の活動に
男性の参加を促すことに取り組む
MÄN


MÄNは1993年以来、ジェンダー平等と男性による暴力反対に取り組む男性のための非営利団体です。より多くの男性や男の子が、身近な人間関係や社会の中で、ケアに対してより大きな責任を持つためには、破壊的な男性性(マスキュリニティ)の規範を変えなければならないと考え、暴力のない平等な世界のために、地域、国内、国外で活動しています。

暴力の防止、平等な子育ての推進、固定観念への挑戦、若い男性の支援、ジェンダーと環境の関連性といった主要分野におけるプロジェクトを、特に子どもや若者を含めたあらゆる年齢の男性、父親を対象として開発しています。

具体的にはMÄNは全国の学校、自治体、地域、国の当局と協力し、スウェーデンにおける暴力防止の課題を強化・定着させるために活動しています。
学校、オンライン、放課後や休日などの余暇活動で若者と会い、暴力に対する認識や知識を広め、自立した批判的な思考をサポートし、対話を通して反省的な議論を育むことを目的としています。

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MÄNはまた、体系的かつ長期的な暴力防止を広めるためにスウェーデンの自治体や地域とネットワークを形成しています。現在、スウェーデンの自治体の約20%がこのネットワークに所属しており、MÄNはこれらの取り組みの一環として、自治体や地域に対してプロセスマネジメント支援とプロセスマネジメント研修を提供しています。

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「ちょうど組織が大きくなってきたころ、2017年に#MeTooムーブメントがありました。国中でたくさんの困惑した男性たちがMÄNに参加するようになりました。たくさんのグループができ、男性たちに会話のためのワーク、例えば自分の中に何があるかを2分間ひとり語りする(その間他の人は割って入らない)ワークなどを提供しました。他の男性のそうした話を聞くのは初めて、という男性も多く、シンプルですが効果的な方法です。

暴力を防ぐには、暴力とは何かを知ることです。もう一つ重要なのは、ジェンダーの理解です。ジェンダーとセックスを理解するにはとてもたくさんの方法があります。なにが変化可能なのか?にフォーカスしています。

今いちばん大きなプログラムは傍観者へのアプローチです。暴力では加害者と被害者がいるとよく言われますが、そのまわりには多くの傍観者がいます。彼らが役割を果たせるようにするのです。暴力予防のプログラムには16のレッスンがあります。私たちは学校の先生を教育し、彼らが授業で実践しています。

MÄNのサポートチャットには年間6000人が相談にきます。私たちのサポートホットラインKillar.seでは、思春期の少年たちに支援的な会話を提供しています。また、セラピーオフィスもあり、15~25歳の青年たちが心理学者やガイダンスオフィサーと会話するセラピーを受けることができます。」