SWEDENの性教育(後編)

セクソロジー、ジェンダー平等をリードするスウェーデン

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毎年発表される世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では常に上位にランクイン、2018年に成立した性的同意法(明確な同意がなければ全てレイプ)が話題になるなど、世界のジェンダー平等をリードするスウェーデン。日本のジェンダー平等やセクソロジーへのヒントを求めて、いくつかの組織を取材しました。

若者が心や体、性の悩みなどを無料で気軽に相談できる場所
ユースクリニック


スウェーデンには、13歳から24歳以下のすべての人を対象にしたユースクリニックがあります。ここにはカウンセラー、看護師、助産師、医師が(一部のクリニックには心理学者や心理療法士も)いて、身体のこと、セックスのこと、ジェンダー・セクシュアリティのこと、人間関係のことなど、なんでも気軽に相談でき、アドバイスやサポート、助けを得ることができます。地域差はありますが、18歳未満は無料、18際以上でもほとんどのクリニックは無料です。プライバシーは厳しく守られ、たとえ保護者であっても本人の同意なしにカルテを見ることはできません。
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ユースクリニックは、地域ケア事業とケアに密着した健康増進事業を行う保健・医療行政機関「リージョナル・ヘルス(地域保健)」の一部に位置づけられます。取材させていただいたヒシンゲン・ユースクリニック(ヨーテボリ市)のあるヴェストラ・イェータランド県では、ユースクリニック(Ungdomsmottagning、UM)が56か所あり、その中にはオンラインクリニック(UM オンライン) が1つあります。さらに、若い男性のための受付(MUM)が6か所、性的虐待にさらされた人々(脆弱な若者)のための受付が1か所あり、希望するサポートを求めることができます。電話かオンラインで予約するのが一般的ですが、多くのユースクリニックでは、予約なしで行ける時間帯を週に1回設けています。これはドロップインと呼ばれています。

ユースクリニックでは、妊娠や性感染症から身を守る方法についてのアドバイスや情報も得ることができます。無料で検査を受け、避妊薬の処方箋を受け取り、コンドームを受け取ることができます。20歳未満であれば、避妊せずに性行為をしたことがある場合、緊急避妊薬の投与を受けることができます。

他にもこんなことが相談できます:

  • ジェンダー・セクシュアリティ
  • 暴力と人権侵害
  • 家族
  • 身体
  • 自尊心、内気さ、アイデンティティ
  • セックスや人間関係
  • 性感染症予防や避妊
  • 性病検査
  • 妊娠検査を受けたい、または緊急避妊ピルや銅製IUDなどの緊急避妊法が必要であるとき
  • 何か心配事がある、悲しい、ストレスを感じているとき
  • 話し相手がほしいとき
  • 食事や食べることに問題があるとき

ほとんどのユースクリニックでは、無料でコンドームをもらえます。希望すれば、受付に誰かを連れてくることもできます。例えば、友人、きょうだい、大人などです。

■オンラインのユースクリニックサイト「UMO.se - 性、健康、人間関係について
13歳から25歳までのすべての人のためのウェブサイト。UMO.seでは、身体、セックス、人間関係、メンタルヘルス、アルコールと薬物、自尊心など、さまざまな知識を得ることができます。近くにあるユースクリニックを探すこともできます。
スウェーデンのすべての地域がUMOに参加し、運営を支えています。

■若い男性のためのクリニック(MUM)
18歳から30歳までの男性と自認する人が利用できるセクシュアリティと人間関係について扱うクリニックです。多くの少年や青年が、セクシュアリティや人間関係の問題で助けを求めることに抵抗を感じています。それは、性感染症や性的な問題に対する不安から、親密な関係における問題、性的強迫に対する不安、その他の心配事まで、決まった人間関係の中であれ外であれ、あらゆる問題について相談することができます。「不安に関するクリニック」ともいえるMUMでは、看護師、性科学者、カウンセラー、心理学者、医師が働いています。
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「このユースクリニックには20人くらい勤務しています。7人の助産師、7人のカウンセラー、心理学者、管理の仕事をする人など。医師は2人いますが、勤務は毎日ではありません。
面談はだいたい30〜45分ですが、はじめてのときは60分くらいかかります。
(避妊のための)インプラントもできますし、性感染症の検査もできます。

Instagram、TikTokなど、若者がアクセスしている場所で呼びかけていますが、例えば若い男性、特に他の国にルーツのある男性などはここを訪れません。
ここはセックスクリニックではない、性と健康の権利のためのクリニック、人権のためのクリニックであると伝えています。
彼らはバーチャルではない、フィジカルなコミュニケーションも求めているので、クリニックに来るように呼びかけています。」

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「また、新学期にはスクールフェアとしてMessa(メッセ、展示会のようなもの)を学校で実施しています。
ユースクリニックです、こういう仕事をしています、こういう相談に乗ります、私たちは誰でこういうことのために働いています、といったことなどを紹介します。
ルーツや学歴が原因でスウェーデン語が苦手な人たちにもイラストややさしいスウェーデン語、彼らの言語などを使って情報を届けています。
スウェーデン語が上手く通じないときは通訳を入れてやり取りします。文化の違いから、例えばマスターベーションについても、文化的にそれまで話すことさえ許されていなかったかもしれませんが、ここではそれが彼らの権利であり安全であることなど、スウェーデンでの捉えられ方も伝えています。
子どもは徐々に親離れするものです。私たちは若者が感じるストレスに対処する手助けをするためにいます。」

SRHRを地域の暮らしや仕事に組み込んでいくための行政機関
性の健康のためのナレッジセンター(KSH, Knowledge center for sexual health)

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KSHは、SRHR、すなわち性と生殖に関する健康と権利のための組織で、ヴェストラ・イェータランド県内の行政区域ごとにあります。すべての住民が、性と生殖に関する自由と権利、必要なケア、そして自らの身体と生殖について十分な情報を得た上でそれらを活用し、自分で選択できるように取り組んでいます。この地域で採択されたSRHR戦略に一般企業が従うよう支援することも使命としています。

性と生殖に関する健康は、一般的な健康の重要な一部です。従って、医療におけるセクシュアリティについてもっと話すべきですし、一般企業などにおいても業務のなかにSRHRをあたりまえに組み込む必要があります。KSHはSRHR*に取り組む企業に対して、事業開発、教育(リアル、オンラインでの研修)、研究を通じて協力しています。

KSHが提供する支援:

  • SRHRオンラインコース
  • 職場で休憩時間に聴けるポッドキャスト「Sex at Work」
  • 医療現場でSRHRに携わる人向けのSRHRマスタークラス
  • LGBTQの認定資格
  • プライマリ・ケアにおける性の健康-HIV/STIを中心にしたコース
  • コンドームの使用を促進するための研修
  • SEXIT:性の健康と暴力体験についての会話のためのツール
  • Normino:医療に携わる人のためのジェンダーとセクシュアリティにまつわる規範研修
  • 医療従事者のための基礎性科学トレーニング

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すべての人には、良好で平等な、性と生殖に関する健康、知識、情報、ケア、サービスを受ける権利があります。
その権利を実現するために、子どもや海外ルーツを持つ人でも理解しやすい平易なスウェーデン語や翻訳、写真などを駆使したツールも用意し、医療機関やユースクリニックなどに提供しています。

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「KSHは、歴史的には想定外妊娠や、性感染症を防ぐために活動を始めました。
5年前からSRHRや権利などもっと広い視野での活動をするようになりました。
この地域(ヴェストラ・イェータランド県)はスウェーデンでも最大の人口があります。
ヘルスケア、環境問題、交通・ロジスティックスの問題など対処すべき問題は多くありますが、ヘルスケアが最も重要です。私のいるユニットは、その中でも性と生殖に関する健康に特化しています。
ターミナルケア、病院、ユースクリニック、女性、などのグループがあり、コーディネーターが雇用されていて、それぞれの現場でどんなニーズがあるかを調べ、情報交換しています。そして年に数回、それぞれの小さなユニットが、専門家を通してSRHRを促進しています。ケアするスタッフを教育しトレーニングする人もいれば、リサーチをする人もいます。

SRHRバスはモバイルセクシュアルヘルスケアクリニックで、例えば文化的にそういった話をしない難民の方々のような、普段SRHRにアクセスしにくい人々のためのものです。
バスの中では性感染症検査もできます。内診台があって診察もできますし、カウンセリングもしています。中年男性が質問をしに来ることもよくあります。バスならアクセスしやすいのでしょうね。
ウェブサイトにチャットボットがあり、具合が悪くなったらまずここで相談できますし、病院の予約もしてくれます。

このKSHでは週に1回、セクシュアルヘルスについても相談を受け付けています。セクシュアルヘルスには誰もがアクセスできる必要があるからです。移民の方には通訳を付ける権利があります。情報や知識、セクシュアリティ、ジェンダーなどを、WHOの基本的な医療アクセスに沿って提供しています。

学生のヘルスケアについてのカンファレンスをひらくこともあります。
すべての学校には看護師、カウンセラー、コーディネーターがいますが、彼らにSRHRについて説明できる通訳をトレーニングしています。
STI(性感染症)ガイダンスも年に2回実施しています。
先月ユースクリニックが、SRHRの専門家ではない人たち向けにプライマリーケアのカンファレンスを主催し、私たちも協力しました。
ジェンダー平等庁や公衆衛生庁などさまざまな関係者が集まってカリキュラムをどう変えていくかについてのカンファレンスもあります。」

あらゆる女性をエンパワーメントし続ける教育機関
ウィメン・フォーク・カレッジ(Kvinnofolkhögskolan)

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ウィメン・フォーク・カレッジは、ヨーテボリ中心部にあります。ここでは、幅広い年齢の女性、トランス女性、ノンバイナリー等の人々が、さまざまな背景、目標を持って勉強しています。
初等・中等学校レベル(日本の高校くらいまで)のコースと、フェミニズム研究に焦点を当てたコースがありますが、どのコースの授業にも共通しているのは、ジェンダーの視点を持っていることです。
ウィメン・フォーク・カレッジでは、他の多くの学校とは少し違った方法で学習が行われます。少人数のグループで、プロジェクト形式で行われることが多く、コース参加者のニーズ、予備知識、経験に基づいています。そのため、コース参加者は学習の方向性や内容に影響を与えることができます。
長年にわたり、アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、その他ヨーロッパの組織化された人々のなかの教育者やフェミニストと協力してきた歴史があります。こうした国際的なコンタクトにより、世界各地の状況を比較することが可能になっています。また、スウェーデン国内でも多くの協力関係があり、フェミニズム運動で活動するさまざまなグループが毎晩のように校舎を利用しています。また、さまざまな継続教育コースも提供しています。
ウィメン・フォーク・カレッジは、人々が平等な価値を持つ民主主義への社会変革を目指しています。

コースの重要な目標は、参加者が社会で活躍する機会を増やすことです。すべての活動は、宗教的にも政党政治的にも独立したものですが、その出発点は、世界中の女性が政治的、社会的、経済的、文化的に差別されているという事実にあります。

ウィメン・フォーク・カレッジに入学を希望する人は、年齢もバックグラウンドも目標も学習習慣もさまざま。初等・中等教育を修了したい人もいますし、スウェーデン語や科学の知識を高めたい人、コンピューターやビデオカメラの使い方を学びたい人、手芸に挑戦したい人もいます。フェミニズムやジェンダー問題に関心のある人も多いです。

1976年にイェーテボリの女性運動の中で、ウィメン・フォーク・カレッジのワーキンググループが結成されました。
1985年の4月、「独立した女性の大学」に関する決定が国会でなされ、6ヶ月後にウィメン・フォーク・カレッジが開校しました。それ以来、インドへの旅行コース、ラテンアメリカや東欧の組織やネットワークとの協力、自然科学、ヒップホップ、ドキュメンタリー映画、高齢者ケア、シチズンシップ、工芸、交差性(インターセクショナリティ)など、数え切れないほどのさまざまなコース、プロジェクト、コラボレーションが実施されてきました。
生徒のニーズのひとつは保育の充実であり、ウィメン・フォーク・カレッジは、保育の必要な子どものいる女性が勉強する機会を持てるよう、プリスクールを運営しています。学校と同様、プリスクールの出発点は民主主義、ジェンダーの視点、多文化主義です。

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(Agneta Wirénさん)
「女性が権利を得る道のりは本当にゆっくりとしたものでした。
1870年代に女性が入れる大学ができましたが、入れるのは富裕層の女性だけでした。
いまでは155大学があります。コースアクティビティ、たくさんのNGO、女性運動、女性組織があります。
異なる国々からの成人女性も受け入れていますが、彼女たちは異なる教育を受けてきています。
スウェーデンの教育システムに入っても、学校を終えられなかった女性もいます。彼女たちもここでみんなと学んでいます。この学校を修了して大学で学び続ける人もいます。
現在この学校では、18-55歳の人たちが約250人(約100人が遠隔コースで、約150人が通学で)学んでいます。

一般コースを終えると高校修了の学位がもらえます。卒業後は大学に進学するか、仕事を見つけるかします。
クリエイティブライティングや、マイノリティ、サーミ(*1)の人々、ソマリア(*2)の人々などの女性向けのプログラムもあります。
短いコースとしては、移民向けのスウェーデン語のクラス、トランス女性を含む女性向け、新しくできた難民向けのコースもあります。いま6名の難民の方がいて、在留許可を待っています。
この学校は公式には1985 年に開校しました。
70年代に女性ムーブメントがありました。日本でもありましたよね?アメリカでもイギリスでも女性コースができました。1978年に、雇用されていない女性、移民の女性のためのウィメンズハウスができ、お互いから学びあいました。公式に開校した1985年から、学びたい女性のために保育園もありました。

女性だけの学校なんて時代遅れとも言われますが、日本でもありますか?
一緒に学ぶことで強くなります。変化を起こすために、内閣が承認し地方自治体がお金を出しました。この学校を運営している基金は県が出しています。地域(ヨーテボリ市など)からも出ていますが多くは県からです。

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ここまでの道のりは、楽な旅ではありませんでしたが楽しい旅でした。中央の政治家ともコンタクトを取っています。内閣には多くの女性がいて、いまはほぼ50:50です。
バックラッシュもたくさんありました。先日の選挙では極右政党も席数を増やしていますが、でも民主主義は大事です。
アンチフェミニストムーブメントもあります。フェミニストに反対する若い男性たち、保守、極右などが女性の権利に反対しています。もちろん少し心配しています。
他の意見に出会い、なにが正しくてなにが間違っているのか?社会、未来のこと、いったい私は何者なのか?より大きな視点で考えるといった、私たちのような学校でのミーティングや、議論するもっと多くの時間が必要です。

他国から来た女性たちは社会からとても傷つけられています。
ここで他の女性たちとのミーティングに入るとファンタスティックなことが起きます。互いに協力もするし、違いを受け入れるのです。もちろん衝突も起きざるを得ませんし、いつも異なる意見がありますが、他者の考えを知るために議論しています。

80年代は私たちも本当に戦いました。内閣の男性と交代できる女性を育てるというのは難しい種類の教育です。しかしこの20年でとてもラディカルに変わりました。すべての政党で50:50になりました。そんなに昔のことではないのです。候補を男女交互にするようにしたのです。
女性の意見が受け入れられるようになるには時間がかかりますし、それには教育も重要です。そして性暴力への教育も。
2017年、世界的に起きた#MeToo のムーブメントは、スウェーデンでも大きなものでした。ほとんどフェミニスト革命といっていいほど。バックラッシュを恐れましたが、物事は前に進みました。ネバー・ギブアップ、続いていくのです。
政治的には、先日の選挙で政権が交代し、こういう学校へのサポートが減らされることになりそうです。コースをスタートするのが難しくなるのを懸念しています。」

(Mariya Voyvodovaさん)
「40年前や20年前に比べて高学歴な社会になりました。1960年代には大学進学率はとても低かったのです。スウェーデン全体で7万人から、いまや数十万人に。ヨーテボリだけで7万人です。
近年こうした学校は重要になってきています。人生の方向を変えるために、労働者階級から、移民の家庭から、学び続ける可能性や、仕事を求めて。
いまは希望した学校に行けなかった人がキャリアを変えるために、あるいは他の国から来てスウェーデンで卒業証書が効果を発揮しない人が資格を取るために学んでいる場合もあります。

人々なしに戦うことはできません。時々勝つし、時々負けます。
気候危機はじめいろんなことが同時に起こっているいまは、変化のポイントだと思います。ポジティブな方向に変化することを望んでいます。
私は政治家でもあります。社会民主主義党でヨーテボリの市議会議員をしています。
大変だけど重要な仕事です。ポジティブな方に変化させようと働いています。
幼い頃はクラシックバレエを続けるのが夢だったのですが、12歳のときそれじゃ食べていけないと父親に言われました。腹が立ちましたが政治に興味があったので政治科学を学び、ブルガリアから移民としてスウェーデンにきました。2006年、29歳で政治家になり、2010年に市議会に当選しました。

Everything is possible, never give up!」

(*1) 北欧やロシアの先住民族。
(*2) スウェーデンはソマリアからの難民を受け入れています。

セクソロジーとセクシュアリティに関する研究でスウェーデンをリードする
性科学とセクシュアリティ研究センター(マルメ大学)

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マルメ大学のソーシャルワーク研究科にある性科学とセクシュアリティ研究センターは、社会科学、人文科学、医学、臨床の観点から、セクシュアリティに関する学際的な研究を行っています。
設立の目的は、性科学とセクシュアリティ研究における学部全体の研究を発展させ、刺激し、またこの分野における国内および国際的な研究協力を強化することです。

性科学とセクシュアリティ研究センターは、セクシュアリティ分野における教育的・専門的発展と並行して、国内的・国際的研究の中心としての大学の地位をさらに強化することを意図して設立されました。研究は、構造的枠組み、制度的背景、個人の経験に焦点を当て、3つの主要テーマから構成されています:

セクシュアリティ、規範、政治
この研究テーマでは、さまざまな形の社会的介入や法的措置が、セクシュアリティ、ジェンダー、人間関係に関する考え方をどのように生み出し、再生産しているかに焦点を当てています。例えば、性教育のあり方、性器切除が疑われるケースに対するスウェーデン当局の対応、性と生殖に関する健康と権利の構造的条件、LGBTQ+の人々の経験に関連する移民法、商業的性交渉の購入の犯罪化に関する視点など。

性と生殖に関する健康、介入と予防
この分野では、性的・生殖的不健康、性的脆弱性、性感染症の被ばくを予防するための社会的介入のさまざまな形態を調査しています。このテーマで組織された研究プロジェクトは、例えば、社会福祉サービスや学生医療が性と生殖に関する健康と権利の問題にどのように取り組んでいるか、抗生物質耐性に関連した性習慣に関する若年成人の知識、社会福祉機関がLGBTQ+の人々にどのように対処しているか、後天性脳損傷患者のリハビリテーションに関連した性的カウンセリングなどについて。

性的体験と実践
このテーマでは、個人の視点や経験から見た性的体験と実践に焦点を当てています。例えば、知的障害のある若年成人の性的体験に関する推論、後天性脳損傷者の性的健康と不健康、性的虐待の体験が歯科受診の体験にどのように影響するか、デジタル・コミュニケーションにおける性的同意に関する若者の推論など。 非自発的不育症の調査と治療の経験、男性の性的暴力の経験、多人数恋愛(ポリアモニー)の経験、不倫のライフストーリー、LGBTQ+の人々のコミュニティケアにおける治療の経験、炎症性腸疾患とともに生きる若者の性の健康、COVID流行期における親密さとセクシュアリティの経験など。

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「2007年からセクソロジーを対象に、異なる角度からジェンダーなどをリサーチするグループとして活動していたのですが、2014年に研究センターとして設立しました。
スウェーデン、北欧諸国で活動し、各国にメンバーがいますが、毎年プログラムをスタートさせてきました。現在(2022年秋)は14のグループがあります。
メンバーの背景は、ソーシャルワーカー、助産師、看護師、心理学者、医師、サイコセラピストなどです。それぞれがプロフェッショナルとして活動しており、今ここでマスターコースを取っています。そんな彼女たちが一緒に学ぶことで専門領域をまたげるのが強みになっています。異なる専門領域や背景を持つため、異なる視点を持っているのです。
ノーム(社会的なルールや期待される行動様式)や政策がセクシュアリティにどのように関連しているか。組織レベルで、個人レベルで、どのように影響を与えているか、など。他にもたくさんのプロジェクトが進んでいます。

さまざまに異なる背景や志向を持つメンバーが、プロジェクトを立ち上げるためにそれぞれ学内外の助成に応募しています。助成を受けられるプロジェクトは多くはないため、応募書類もたくさん作っています。3年ほどのものもあれば博士号プロジェクトもあります。

「商業的なセックス」をテーマにしている学生は、ソーシャルワーカーとして関わる中で深く考えるようになりました。政治的にもセンシティブなエリアです。私はこの領域に強い関心を持ち、リサーチもたくさんしているので、全体監修をしています。」

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「私のバックグラウンドは助産師、医療系です。性的機能、性的欲望、ジェンダー規範、身体損傷とセクシュアリティ、セクシュアリティとヘルスケアなどが専門です。
通常のマスターコースは2年ですが、速度を半分にして4年間で取得するプログラムも作りました。

マスターコース終了後は、同じ地域でより専門的に働き続ける場合もあれば、専門家として他の地域で働く場合もあります。セクソロジストとして特殊な進路に進む場合もあります。」

取材を終えて:

いま世界のジェンダー平等をリードするスウェーデン。しかし当然ですが、最初からそうだったわけではありません。女性には教育を受ける権利や参政権が与えられていない時代もあり、LGBTQ+が差別されてきた歴史もあったのは日本と同じ。しかし理想を掲げ、仲間を増やし、みんなで話し合い、粘り強く少しずつ法律を変え、いまの形にしてきたということ。そして決していまがゴールではなく、まだまだ課題や改善すべきところがあるということを、みなさん異口同音におっしゃっていたのが印象的でした。日本の私たちへのヒントをたくさんいただけた取材でした。ご協力いただいたみなさまに、この場を借りて心より感謝申し上げます。