同性愛嫌悪、トランス嫌悪

ホモフォビア、トランスフォビアとは?
自分の中にある「嫌悪」に目を向けることから

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「ホモフォビア(同性愛嫌悪)」「トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)」という言葉を聞いたことはありますか?これは単なる意見の違いではありません。 私たちが誰かの存在そのものに対して、「嫌悪」という不安や恐れ、軽蔑や拒絶の感情を抱いてしまうことが、社会の差別や暴力、孤立、沈黙につながっていきます。

「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、ジェンダーに関する教育の中で、この嫌悪に向き合うことが非常に重要だとしています。今回はホモフォビア/トランスフォビアとは何か? なぜ起こるのか? そして私たちに何ができるのかについて、一緒に考えてみましょう。

ホモフォビア、トランスフォビアとは?

ホモフォビア(Homophobia)とは、同性愛者に対する嫌悪感や恐怖心、または差別的な態度のこと。ギリシア語で「同一」を意味するホモと「恐怖症」という意味のフォビアに由来します。
トランスフォビア(Transphobia)は、トランスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別とは異なる性で生きる人々)への嫌悪や偏見、暴力的な態度を指します。


これらは「個人の好き嫌い」や「意見の違い」ではありません。嫌悪(フォビア)がもたらすのは、言葉や態度、制度を通じた生きづらさであり、人の尊厳を傷つける暴力なのです。

なぜ、嫌悪感や偏見が生まれるのか

ホモフォビアやトランスフォビアは、決して個人の無知や性格の問題だけではありません。その根底には、宗教的、社会的、心理的な要因が複雑に絡み合っています。

1. 宗教的背景
キリスト教、イスラム教などの一部の宗教では、同性愛や性別の多様性に否定的な教義が古くから存在しています。特に「男と女」という二元論の性別観をベースにした教えでは、同性間の愛や性別移行を罪や逸脱と見なすこともあります。
そのため、宗教的な価値観が強く根付いている地域や国では、法律や教育制度もそれに準じており、差別や排除が正当化されてしまうことがあります。

ただし、近年では宗教界の中にもLGBTQ+に理解を示す動きが広がっており、「神の愛はすべての人に注がれるべきだ」という包摂的な考え方も生まれつつあります。

2. 社会的背景
私たちが生きる社会には、「普通」や「常識」とされる基準があり、それに当てはまらない存在は排除されがちです。たとえば、「男はこうあるべき」「女はこう振る舞うべき」というジェンダーロール。これらはメディア、教育、家族、学校などを通じて無意識に刷り込まれてきたもので、「多様な性のあり方」や「違いを受け入れる」という価値観が育ちにくい土壌をつくってきました。

日本の教育現場では、性や恋愛に関する話題がタブー視されがちで、LGBTQ+や性の多様性について学ぶ機会が圧倒的に不足しています。保健体育の授業でも、異性愛とシスジェンダー(生まれ持った性別と性自認が一致している人のこと)が前提とされており、同性を好きになることや、性別に違和感を持つことについては、ほとんど触れられないのが実情です。そのため、「いろいろな人がいる」と知る前に、「普通じゃない」「よくわからない」というイメージだけが先行してしまう。知識や対話がないことが、偏見や無関心、そして恐れや嫌悪につながりやすくなります。

また、テレビドラマやバラエティ番組などで、LGBTQ+の出演者が増えてきた一方で、いまだにステレオタイプな描かれ方が多いのも現実です。性の多様性を笑いや話題性として消費してしまうことも、当事者にとっては心の傷になることがあります。私たちがメディアを通じて受け取っているイメージは、無意識のうちに偏見の土台をつくっているかもしれません。

加えて日本では、「周りと同じであること」や「場の空気を読むこと」が美徳とされる文化があります。これは協調性を重んじるという良い側面もありますが、違いを受け入れ、その違いを楽しむ力が育ちにくい土壌でもあります。

3. 心理的背景
ホモフォビアやトランスフォビアは、「知らないから怖い」「理解できないから拒絶する」という無知や人間的な反応からくることもありますが、実はそれが社会的な差別であり、それに加担することにつながっていると認識することが重要です。

政治や経済の不安定さの中でマイノリティがスケープゴートにされ、人々の不安や不満の矛先になることがあります。社会不安が高まるほど、「自分とは違う存在」が排除されやすくなるのです。

人々の不安が煽られ、マイノリティがその犠牲になった歴史的な事件として、ナチス・ドイツにおける同性愛者の迫害と虐殺が挙げられます。ホロコーストにおける同性愛者の死者数は5000人を超えるとも言われています。

新型コロナウイルスのパンデミック禍でも、世界中で性的マイノリティの人々が攻撃を受けやすくなったり、差別を恐れてワクチンや検査の接種が遅れるなどといったことが起きました。

私たちに何ができるのか?

では、ホモフォビアやトランスフォビアに対して、私たちは何ができるでしょうか?当事者でない場合、「自分には嫌悪の感情はないから関係ない」と思う人もいるかもしれません。でも、大切なのは以下のような、傍観者でいないという姿勢です。

  • 正しい知識を持ち、学び続ける
  • 当事者の声をSNSや書籍、イベントなどで知る
  • 偏見のある発言に対して勇気を出して「それ、おかしくない?」と声を上げる
  • 学校や職場にある制度の見直しを働きかける

はじめてのトランスジェンダー

例えばウェブサイト「はじめてのトランスジェンダー」は普段トランスジェンダーを身近に感じていない人にとっても分かりやすく情報がまとまっています。
また、5月17日の「多様な性にYESの日(国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日)」はホモフォビアやトランスフォビアを含む、LGBTQI嫌悪に反対する国際デーです。

5月17日という日にちは、1990年5月17日に世界保健機関(WHO)が同性愛を国際疾病分類から削除したことを記念して選ばれました。

この日は世界中、日本中で、性的指向や性自認に基づく差別や暴力に対する認識を高め、性的マイノリティの権利や尊厳を考えるきっかけになるような様々なイベントが行われているので、参加してみるのも一つの方法です。

誰かを傷つけるつもりはなかったけれど、結果的に、傷つけてしまった。そんな無自覚な加害を生まないためには、「嫌悪(フォビア)」という感情の構造や背景に、まずはきちんと目を向けることが必要です。