SDGsには2030年までに世界中すべての国が達成すべき17の目標と、それを実現するための169のターゲットが設定されています。ターゲットはそれぞれの目標を達成するための、数値など可視化できる具体的な内容となっています。『SEXOLOGY』が目指しているセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の向上も、実はSDGsのターゲットに明確に書かれています。
具体的には目標3「健康と福祉を」と目標5「ジェンダーの平等を実現しよう」に含まれる、以下の三つのターゲットが特にSRHRの向上に深く関係しています。
ターゲット3.7:2030年までに、家族計画、情報・教育、およびリプロダクティブ・ヘルスの国家戦略・計画への組み入れを含む、性と生殖に関するヘルスケアをすべての人々が利用できるようにする。
ターゲット3.8:すべての人々に対する財政保障、質の高い基礎的なヘルスケア・サービスへのアクセス、および安全で効果的、かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンのアクセス提供を含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)※を達成する。
ターゲット5.6:国際人口開発会議(ICPD)の行動計画および北京行動綱領、ならびにこれらの検討会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康および権利への普遍的アクセスを確保する。
(※注釈)
UHC=「すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」のこと
世界でも国内でも課題は山積みの状態ですが、少しずつ推進されている施策もあります。 具体的な取り組みをいくつか見ていきましょう。
◎包括的性教育
世界的には、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」が包括的性教育の指針となっていて、身体や生殖のしくみだけでなく人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、性を安全に楽しむ権利など、幅広いテーマを包括的に扱う「包括的性教育」が導入される国が増えています。
2018年にはアメリカでSRHRの新しい定義※が発表され、SRHR推進の中心的役割を担ってきた国際家族計画連盟(IPPF)もこれを支持。そこではこれまでの成果をふまえて新たに取り組むべき課題が示され、その中で「すべての国に、科学的根拠に基づき、国際的な技術指針に則った包括的セクシュアリティ教育の統一課程を作ること」を求めています。
※グッドマッハー・ランセット委員会「進歩を加速する―すべての人々のためのセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」
◎緊急避妊薬や経口中絶薬への安全で安価なアクセス
世界では避妊具や中絶が安価もしくは無料で提供されるなどの取り組みが進んでいます。例えばフランスでは2023年度予算案に、緊急避妊薬を全ての女性が年齢を問わず医師の処方箋なしで薬局で無料入手できるようにすること、同時に、18〜25歳の人はコンドームも薬局で無料で入手できるようにすることが盛り込まれました。日本でも緊急避妊薬の処方箋なしでの薬局販売への期待が高まっていますが、現時点では、2023年11月28日から2024年1月31日まで特定の条件を満たす全国145の薬局で試験的な販売が行われたにとどまり、その後も限定的な試験販売が継続されています。
またWHOの必須医薬品(妥当な価格で広く使用されるべき製品)に指定され、世界82ヶ国で導入されている経口中絶薬は、諸外国に20年以上遅れて日本でも2023年4月に薬事承認されました。しかし導入する医療機関が限られ、必要とする女性に届くには多くの課題が残っています(2024年9月現在)。WHOが「安全性に劣る時代遅れの中絶法」としている掻爬(そうは)法という手術が未だ実施されているのが現状です。
◎ユースクリニックの広がり
ユースクリニックはその名の通り若者専用のクリニックです。たとえばスウェーデンの場合、13歳から25歳の若者が助産師・看護師・カウンセラー・医師などに無料で相談できます。スウェーデンには約250以上のユースクリニックがあり、避妊具の提供や性感染症や妊娠に関するケア、学校や家庭での人間関係、摂食障害など、若者の心と身体の悩みを話せる場所となっています。WHOは90年代から、全世界的に若者はヘルスケアに、特に性に関わるヘルスケアにアクセスしにくいグループであるとして、ユースフレンドリーな医療の重要性を掲げ、子どもの権利やプライバシーの遵守、受け入れやすさの重要性などを示すガイドラインも発行しており、各国で様々な実践がなされています。
2022年4月から不妊治療が保険適用になるなど、日本でも少しずつSRHRへの取り組みは広がっています。SDGsの目標達成期限である2030年は遠い未来ではありません。個人の小さな気づきや行動の積み重ねが、壮大な目標に近づくための一歩となるはずです。