世界では身体や生殖の仕組みだけでなく、人間関係やジェンダー平等、人権なども含めて幼少期から幅広く体系的に性について学ぶ「包括的性教育(Comprehensive Sexuality Education=CSE)」が広がっており、ユネスコも国際的なガイドラインを発表しています。しかし日本の性教育は人権が大切にされている国々と比較すると大幅に遅れています。指導方法も、表面的に「○○してはいけない」と指導することが多く、本来は性教育の前提となる「からだの権利」についての学びはほとんどありません。
「からだの権利」とはすべての人が持っている、「自分の身体に誰がどのように触れるかは、全て自分で決める」権利のこと。そのためには子どもも大人も正しい知識を得ることが必要です。
2021年4月以降、文科省より性暴力を防ぐ目的で「生命(いのち)の安全教育」が推進され、プライベートパーツ(ゾーン)という言葉を見聞きする機会が増えたかもしれません。ただ、人権を基盤とした内容ではないことから「生命(いのち)の安全教育」は包括的性教育とは言えず、プライベートパーツ(ゾーン)の説明も不十分な内容となっています。
プライベートパーツ(ゾーン)とは、他人が勝手に触ったり見たりしてはいけない部分のことを指す言葉です。よく“水着で隠れる部分”や“口、胸、お尻、生器”と説明されていますが、本来は、身体すべてがプライベートパーツ(ゾーン)と言えます。どこがプライベートパーツ(ゾーン)なのかそうでないのかの「境界線(バウンダリー)」は、自分に決める権利があるのです。
「境界線(バウンダリー)」について正しく知り、子どもに伝えていくことも大切です。境界線は人によって違うもの。自分の境界線は自分で決めてよい、境界線が守られていないときはNOと言ってよい、自分の境界は自分の意思に基づきいつでも変えてよい、そして自分の境界線を大切にするのと同じように相手の境界線も大切にすること、つまりは、行動する前に相手に聞く、相手の同意がもらえなければすぐにやめるということを、まずは私たち自身がしっかりと知ることが必要です。そして子どもたちにも大人が一方的に教えるのではなく、子ども自身がいろいろな人との触れ合いを通じて自分の頭で考えて行動できるように導くことが、大人の役割です。